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大阪地方裁判所 昭和36年(わ)4319号 判決

被告人 郭椿然

一九二二・八・一五生 バー経営

深水生富

明三七・一一・一四生 看板業

主文

被告人郭を懲役八月に、

被告人深水を懲役四月に、

処する。

本件公訴事実中、外国国章損壊の点について、被告人両名は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人郭は中華民国の成立を否認し、台湾民族による台湾の独立を念願としている人々によつて組織されているという台湾共和国の臨時国民会議員であり、且つ同共和国の政党、台湾自由独立党の統制部長の地位にあるというもの、被告人深水は神戸市において看板業を営むものであるところ、被告人両名は共謀の上、

第一、昭和三十六年九月三十日午前二時過ぎ頃から同三時頃までの間に、大阪市東区安土町四丁目三十三番地所在、御堂筋大通りに正面している中華民国駐大阪総領事館邸(鉄筋コンクリート造り、六階建)前において、同館邸一階正面出入口鉄製扉(同建物の一部を構成し、取り外せないもの)の中央に、白色ビニール塗料及び黒色エナメル塗料を使用して台湾共和国の国旗と称する日月のマークを描き、右マークの左右と下部に、白色ビニール塗料を使用して「支那人は支那へ帰れ」「台湾は台人のもの」「豚豚」と大書し、更に同館邸一階正面出入口左右の石造りの外壁に、赤色エナメル塗料を使用して「台湾独立万才」「台湾共和国万才」「蒋介石一派の豚共は台湾より去れ」と大書し、よつて中華民国の大統領である蒋介石総統を公然侮辱するとともに、同国総領事の公の事務所である右館邸の威容と美観とを著しく損わしめる意味、書体の文言とマークとを容易に原状に復し得ない程度に同館邸正面に附着せしめてこれを汚損し、もつて公然人を侮辱するとともに、他人の建造物を損壊し、

第二、右犯行に引き続き、前記館邸一階正面出入口上部に「台湾共和国大阪総領事館」と大書した看板を掲げる目的で、総領事孫秉乾の看守する同館邸一階正面出入口上部のポーチに立ち入り、もつて故なく人の看守する建造物に侵入し、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

一、被告人両名の判示各所為中、建造物損壊の点は刑法第二百六十条前段、第六十条に、侮辱の点は刑法第二百三十一条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条に、建造物侵入の点は刑法第百三十条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第三条に、各該当。建造物侵入罪について、いずれも懲役刑選択。

一、被告人両名の判示第一の所為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段、第十条に則り、いずれも重い建造物損壊罪の刑で処断する。

一、被告人両名の以上の各罪は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条に則り、いずれも重い建造物損壊罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で、各主文のとおり科刑する。

(無罪について)

本件公訴事実中「被告人両名は共謀の上、昭和三十六年九月三十日午前三時頃中華民国に対し侮辱を加える目的を以て、大阪市東区安土町四丁目三十三番地所在の同国駐大阪総領事館邸一階正面出入口上部の中央に、中華民国の青天白日の国章を刻し、その右側に「中華」、左側に「大厦」と刻した横額の上に、ベニヤ板製の「台湾共和国大阪総領事館」と大書した看板を掲げて、右中華民国の国章のある横額を外部から全く遮蔽し、もつて外国の国章を損壊したものである」との点について審理するに、前掲の各証拠によれば被告人両名が右に摘示された行為をなしたことは一応これを認めることができる。

しかし、刑法第九十二条にいわゆる損壊とは同条所定の国章を物質的に破壊する行為を指称すると解すべきところ、被告人両名のなした処は、国章そのものには何ら物質的破壊を加えることなく、単に国章の前面に本件看板を垂下して国章を外部から見えないように遮蔽したに止つたのであるから、右は刑法第九十二条の外国国章損壊罪を構成しないといわなければならない。

よつて、刑事訴訟法第三百三十六条に従つてこの点については被告人両名に対し無罪の言渡をする。

以上のとおり判決する。

(裁判官 石合茂四郎)

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